10月8日 実証 写楽は北斎である(西洋美術史の手法が解き明かした真実) 田中英道 祥伝社 読後満足度:AA


  2500円とちょっと高かったが、読み終わってその思いは消し飛んだ。久しぶりに好書を手に入れた。
  「邪馬台国の九州,大和論争」とともに、「写楽とは誰か」日本史の大きな謎といわれる。突然に現れ、140数点
  の作品を残して消えてしまった写楽である。
  この問題を東大美術史学科を出て、フランス,イタリア美術史及びミケランジェロのシスティナ礼拝堂の天井画を、
  研究した著者が、モレリアン・メソッド(表面的に形の相似を見つけることでなく、その線の質を見分けること)で
  写楽は北斎であると説いたものだ。「写楽=北斎」説は昔からあったらしい。
  北斎の青春期に、勝川春朗と名乗っていた時代の役者絵と、写楽の作品を仔細に比較検討した結論である。
  浮世絵師は、名前がころころ変わっている。北斎も「勝川春朗」→(写楽?)→「俵屋宗理」→「可候」→「葛飾北
  斎」と改名している。(さらに、その後31回もの改名があるらしい!)改名せざるを得ない背景には、華美に対し
  及び、幕府批判に対する幕府の弾圧がある。
  インターネットで、浮世絵をかなり集めたが、作者毎の整理では、収集がつかず投げ出している。同じ豊国や歌麿に
  も、T世からV世が存在する。浮世絵の愛好家は、日本よりも外国の人に多いと感じた。非常に充実したリンク集も
  外国にある。また、日本のものには、復刻版が多く、明治時代の海外流出が悔やまれる。
  浮世絵については、絵師に対して彫師や刷師の評価がなさ過ぎると、感じてならない。線の生き死にも、彫師の腕に
  かかっていると思うのだが・・・・
  写楽の正式な作品名が分かったのも、この本に感謝したい。
  この本は、後日じっくりと再読する価値がある。読後満足度も、特に”AA”とした。

    (豆知識)同書より
      1.いろいろな写楽説
        ・ 阿波の能役者     斎藤十郎兵衛
        ・ 版元         蔦谷重三郎
        ・ 作家         山東京伝
        ・ 謎の断筆絵師     鳥居清政
        ・ 同時代の浮世絵師   栄松斎長喜
        ・ 美人画の巨匠     喜多川歌麿
        ・ 梅原 猛氏の説    歌川豊国
        ・ 池田満寿夫氏の説   中村此蔵
      2.名前について
        ・ 東洲斎写楽,葛飾北斎ともに、京の都にたいして、東の絵師の意味がある。
        ・ 写楽:”(しゃらく)さい”/北斎:”あ(ほくさい)”

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